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「ハコ」はできても「ヒト」がいない。
海外赴任を“リスク”から“武器”に変える「体験の設計」

公開日: 企業イベント

「海外拠点の拡大を進めたいが、そこを任せられる人材が不足している」

グローバル進出や海外での多店舗展開、拠点拡大を急ぐ企業では、今このような課題が浮上しています。事業拡大のスピードに「社員のマインドセット」が追いついていないという現実です。経営陣がどれほど精緻なグローバル戦略を描き、海外展開のアクセルを踏み込んでも、肝心の「人」がついてこなければ机上の空論で終わってしまいます。

かつて「エリート」の象徴であった海外赴任は、現代において必ずしも手放しで喜ばれるものではなくなっています。
自身のキャリアやライフステージを天秤にかけた時、「できれば今のままがいい」「自分にはまだ早いのではないか」と静かに足踏みをしてしまうのです。企業はこのギャップをどう埋めていけば良いのでしょうか。本コラムでは、社員のリアルな心理を紐解き、グローバル競争力を支えるこれからの企業のあり方について考察します。

拡大する「拠点」と、取り残される「人材」

日本企業の海外売上高比率は年々上昇し、ビジネスの現場では「グローバル化」はもはや特別な戦略ではなく、日常の前提となりました。
こういった状況下で、多くの経営層は「拠点の拡大」を最優先で取り組みます。しかし、現場で起きているのは、物理的な拠点の新設スピードに対し、そこを支え、事業を牽引する人材が不足しているという事態です。

この不足は、単なる「頭数」の問題ではありません。本質的な課題は、「マインドの不足」にあります。一見すると社員の内向き志向と思えるような現象が、企業にとって見過ごせない課題として浮き彫りになっています。かつての日本では、「会社からの辞令は絶対」であり、海外赴任は出世コースの登竜門として誰もが憧れるものでした。しかし現在は、労働における価値観の多様化や社会構造の変化により、その前提は崩れ去っています。
共働き世帯の増加や、ワークライフバランスの重視、個人のキャリア観の多様化により、辞令一つで社員が目を輝かせた時代とは全く異なる風景へ変化しているのです。

食わず嫌いをなくせば「武器」になる

beyond global Japan株式会社が海外駐在経験者向けに行った調査によると、「海外駐在に行ってよかったと思いましたか?」という問いに対し、元々海外勤務を希望していなかった人でも、実際に赴任を経験した後には「経験してよかった」、「大きく成長できた」と高い満足度を示していることが分かりました。

海外駐在に行ってよかったと思いましたか?

また、海外赴任に行ってよかったと思った理由として、挑戦の幅広さや、異文化理解による視野の広がり、仕事へのモチベーション向上などを挙げています。

海外駐在に行ってよかったと思った理由は何ですか?(複数回答可)

この結果から見えてくるのは、事前の不安と、実際の赴任で得られる価値との間には大きな「ギャップ」があるということです。
赴任へ積極的になれない理由の多くは、実態を知らないがゆえの、いわば「食わず嫌い」の状態に陥っていることだと言えます。

そこで、これを事前に解消し、社員が「海外経験は自分自身のキャリアの武器になる」と確信を持てる状態をつくる。
それは同時に、企業にとっても不確実なグローバル市場を勝ち抜くための強力な「組織の武器」を手にすることを意味します。
具体的には、以下のような効果が期待できます。

① 将来の赴任候補者の裾野拡大
「思っていたよりもやっていけそうだ」という自信を得た社員は、その後の本格的な赴任打診に対しても前向きに応じる確率が飛躍的に高まります。社員が失敗の恐怖に潰されることなく、本来のポテンシャルを発揮できる土壌が整います。


② グローバルマインドの組織的な醸成
海外拠点の空気感を知る社員が増えることで、組織全体に波及効果が生まれます。現地を「自分の知っている場所」と捉える社員は、国内勤務に戻った後でも、無意識のうちにグローバルな視点を持った判断を下せるようになり、真のグローバル連携が可能になります。


③ 強力な採用ブランディング
「いきなり転勤を命じるのではなく、社員のキャリアへの不安に寄り添い、段階的な挑戦を支援してくれる企業」。このメッセージは、優秀な人材に対して極めて魅力的に映ります。個人の心理的安全性に配慮する姿勢は、現代における最強の採用・リテンション策となります。

調査元:beyond global Japan株式会社
出典:[海外駐在、元々望まなかった87.5%が行ってよかった!海外駐在に向く人、向かない人の特徴も明らかに]|PR TIMES(beyond global Japan株式会社)

心理的ハードルを下げる「体験の設計」

では、この静かなる心理的ハードルを超えさせるために企業として求められることは何なのでしょうか。それは、「辞令一つでいきなり数年間の赴任を決断させる」という設計から脱却することです。彼らが抱えるプレッシャーや不安を取り除くには、意図的に「体験」を設計することが重要です。
いきなり0から100の決断を迫るのではなく、段階的に海外拠点を「自分ごと化」させるアプローチへと転換します。
具体的には、以下のような仕組みが考えられます。

① 短期トライアル
数年単位の本格的な赴任の前に、1~3ヶ月程度の短期プロジェクトベースで現地に滞在させます。「まずは3ヶ月、現地の立ち上げサポートに行ってきてほしい」という短期での期限付きのミッションであれば、万が一失敗した場合のリスクも限定的であり、心理的なプレッシャーは軽減されます。何より「自分でも現地で通用する」という小さな成功体験が、スキルギャップへの恐怖を払拭します。


② 越境ワーケーションの実施
まずは短い期間で、現地で生活・勤務をする機会を提供します。現地での生活体験を通じて、「ここならやっていけそうだ」という安心感を醸成します。


③ 国内からの越境
物理的な移動を伴わず、国内にいながら海外拠点との合同プロジェクトに参画させます。日常的に現地スタッフとオンラインで協働することで、海外拠点を「遠い異国の地」から「よく知る同僚がいる場所」へと変え、現地拠点の解像度を上げることで未知への恐怖を和らげます。

「体験の設計」は、企業の成長戦略である

これまで海外赴任者向けの施策は、手当などの金銭的なインセンティブや語学研修によるスキル補完といった「ハード」の整備が中心でした。しかし、価値観が多様化した現代において、それだけで社員の背中を押すには限界があります。

これからの企業に求められるのは、社員のマインドセットをアップデートし、一歩踏み出す「心のブレーキ」を外すための設計、そして「これからの時代に必要な非典型的な問題解決能力」など、そこから得られる価値をより具体的に言語化し伝えていくことです。
こうした取り組みは、単なる人事施策の域に留まらず、企業の持続的な成長戦略そのものです。

なぜなら、不確実なグローバル市場において、最大の経営リスクは「変化を恐れる硬直化した組織文化」だからです。段階的な体験を通じて「未知を既知に変える力」を社員に実装することは、そのまま組織の「変化への適応力」に直結します。

社員の覚悟をただ待つのではなく、先回りしてその不安を取り除く「体験という橋」を架け、自ら「行ってみよう」「挑戦してみたい」と前向きな一歩を踏み出せる環境をデザインする。 これこそが、これからの組織に課せられた最大のミッションであり、真のグローバル競争力を底上げするための鍵となるのではないでしょうか。

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