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海外赴任者への安全配慮義務と法的責任
企業としておさえておきたいポイントとは?

公開日: 更新日: 海外赴任・駐在者
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先月9月28日(木)に実施したウェビナー『弁護士&医師登壇、海外赴任者のメディカルケア 企業の安全配慮義務を満たし、従業員の心身の健康を守るためには』では「海外赴任者に対するメディカルケア」について専門家の視点で講演を行いました。

今回のコラムでは、2回にわたり、ウェビナーで話に出てきた内容のうち「海外赴任者への安全配慮義務と法的責任」と「海外赴任者の抱えるメディカルリスクと医療事情」について紹介していきます。

安全配慮義務のあらまし

渡航の情報整理

安全配慮義務とは?

安全配慮義務というのは労働契約法第5条に定められた会社の義務です。
ここで会社としておさえておきたい3つのポイントを挙げていきます。

ポイント1:すべての会社がすべての従業員に対して負う
ポイント2:安全には心身の健康が含まれる
ポイント3:具体的内容は個別状況によって異なる

今回はこれらのポイントを軸に詳しく紹介していきます。

ポイント1:すべての会社がすべての従業員に対して負う

「安全配慮義務」は、たとえ契約書に明記がなくても、労働契約の成立と同時に契約に付随して当然発生する義務です。そのため、すべての会社がすべての従業員に 対して負う義務と解せます。
そして、事故や災害、職業病、過重労働、いじめ、ハラスメントなど様々な場面で適用されます。

ポイント2:安全には心身の健康が含まれる

安全配慮義務は、あらゆる業務上の場面で適用され得るもので、労働契約法の定める「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれると解釈ができます。
業務に関連する期間内において、会社は従業員の心身の健康を含めた安全をあらゆる場面で確保しなければなりません。

ポイント3:具体的内容は個別状況によって異なる

必要な安全対策について、最高裁判例によれば「安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況によって異なるべきものである」とされています。
そのため、会社が講じるべき措置は、各々の従業員が働いている環境によって異なるといえます。
また、必ずしも生じたすべての事態について会社が責任を負うわけではなく、予見可能性と結果回避可能性の有無によって、責任の所在が判断されます。
予見可能性・結果回避可能性とは、会社として従業員の身体や精神の不調などを予見することができるか、その事態の発生やさらなる悪化を防ぐために、会社として合理的な範囲で十分な予防策や対応策を講じていたかどうか、という判断要素です。

海外赴任者に対して安全配慮義務は及ぶのか。

使用者である会社は、従業員に対して海外という労務提供場所を指定し赴任を命じている立場にあるため、海外で起こり得る予見できる危険に対処する安全配慮義務を負うと考えられます。

問題となった事例・事案

渡航の情報整理

3つのポイントを踏まえつつ、実際に問題となった事例・事案を海外・国内合わせて4つ紹介いたします。

海外の事例・事案
①ベトナム法人出向中のうつ病による自殺事案
②中国関連会社出向中の仕事後のゴルフ中の心筋梗塞による死亡事案

参考:中国出張中の会食時の飲酒を原因とする嘔吐による窒息死事案

国内の事例・事案
③東日本大震災で勤務先屋上に避難し津波に被災した事案
④ 派遣労働者の自殺事案

事例1: ベトナム法人出向中のうつ病による自殺事案

ベトナムのグループ会社に出向中にうつ病を発症し自殺

遺族が、従業員は困難な業務の責任を負わされ、上司からパワハラを受けるなどした結果自殺したとし、出向元の日本企業の安全配慮義務違反を主張し訴えた

裁判例
ベトナム法人又は産業医などを通じて労働者の心身に問題が生じているとの具体的な報告や相談を受けるなどした場合に、労働者の雇用主として、その内容に応じて必要な限度で適切な対応を行うべき義務を負っていたと認めるのが相当である。(東京地判令和2年8月25日)

この裁判例からは、一般的に会社として従業員の心身の問題を把握した場合適切な対応を講じる必要がある、といえます。
会社は、海外赴任中の従業員が心身の不調を訴えた際に備え、あらかじめ対応策を用意しておき、精神科の受診を勧めるなどスムーズに対応する必要がありそうです。

事例2: 中国関連会社出向中の仕事後のゴルフ中の心筋梗塞による死亡事案

中国の関連会社への出向期間中において、仕事後のゴルフ中に心筋梗塞を発症し死亡

遺族が、安全配慮義務違反等を主張し訴えた

裁判例
労働者に従事させる業務を定めてこれを行わせるに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負っていたと解するのが相当である。(東京地判平成22年8月30日)

この裁判例からすると、会社は、従業員が心身に不調をきたした後の対応だけでなく、そもそも疲労や心理的負担が蓄積してしまわないように注意しなければならないということです。
すなわち、会社は、従業員が業務によって心身の健康を害さないよう注意する義務を負っているといえます。



参考:中国出張中の会食時の飲酒を原因とする嘔吐による窒息死事案

中国出張中の会食への参加の業務起因性が認められた

参考事案
海外(中国)出張中の飲酒(仕事関係の会合)を原因とする嘔吐により窒息死した事案
(東京地判平成26年3月19日)

また、参考事案について、安全配慮義務の裁判例ではないですが、この裁判例においては、会食への参加について業務起因性が認められました。
会社は、仕事に関連する会食のような会合でも、責任を問われうることを認識しておく必要があります。

事例3: 東日本大震災で勤務先屋上に避難し津波に被災した事案

東日本大震災の地震発生後、銀行の行員が、勤務先の支店屋上に避難して津波に流され死亡または行方不明となった

遺族が、銀行の安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求した

裁判例
被告は、本件被災行員ら3名が使用者又は上司の指示に従って遂行する業務を管理するに当たっては、その生命及び健康等が地震や津波といった自然災害の危険からも保護されるよう配慮すべき義務を負っていた。(東京地判平成22年8月30日)

この裁判例では、災害についても、会社は労働者との関係で安全配慮義務を負うことが明示されました。災害の発生により予見しうる危険については、普段から準備をするなど具体的措置を講じる必要があるということです。

事例4: 派遣労働者の自殺事案

派遣労働者が自殺した件について、派遣元と派遣先の安全配慮義務が問題となった

裁判所は、自殺結果については被告会社の法的責任を否定しながらも、慰謝料請求を認容した

裁判例
単に調子はどうかなどと抽象的に問うだけではなく、より具体的に、どこの病院に通院していて、どのような診断を受け、何か薬等を処方されて服用しているのか、その薬品名は何かなどを尋ねるなどして、不調の具体的な内容や程度等についてより詳細に把握し、必要があれば、派遣会社または派遣先会社の産業医等の診察を受けさせるなどした上で、労働者自身の体調管理が適切に行われるよう配慮し、指導すべき義務があった。(東京地判平成22年8月30日)

この裁判例からすると、会社は、産業医等の診察を受けさせるなど具体的措置を講じる必要があるということです。
海外赴任者の場合、現地に産業医が不在であることも多く、外部の医療機関と連携するなどして対処する必要があるといえそうです。

まとめ

今回は、海外赴任者に対する「安全配慮義務」について、3つのポイントを軸に事案をふまえて解説してきましたが、要点をまとめると以下のことがわかりました。

① 会社は、従業員の職種、労務内容、労務提供場所等の個別具体的な状況に応じて、安全配慮義務に基づく具体的措置を講じる必要がある。
② 会社は、海外赴任者・出張者に対しても、海外での労務提供を命じる都合上、安全配慮義務を負う。
③ 国内で認定された義務の内容は、労働者の具体的な状況によって、海外でも適用される。

さらに、先進国であっても戦争・テロ・犯罪行為・不慮の事故・災害等の発生危険が当然にあることを前提にすると、会社は、かかる問題により従業員が傷病を負った場合、予見可能性・結果回避可能性を基に採るべき安全配慮を尽くしていなければ法的責任を負いうるといえます。

もちろん具体的には個別判断ですが、会社は、少なくとも今回紹介した裁判所が明示している内容については、リスクを回避する必要があります。

海外赴任者に対する危険回避・メディカルケア充足の必要性

最後に、会社は、海外赴任者に対して、少なくとも予見し得る危険に対応しておくことが必要といえます。

具体的に、
1つは、戦争・テロ・犯罪行為・災害などを想定し、情報収集・発信や退避体制・医療体制を構築しておくことです。東日本大震災の例が海外でも適用されうるという点です。
もう1つは、心身の不調を想定し、メディカルケア体制の構築をしておくということです。

事例において精神の不調による自殺の例や心筋梗塞といった身体的不調の例が挙げられましたが、会社としては、海外赴任者におけるこれらの事態を防ぐような対策をあらかじめとっておくべきであるといえるでしょう。

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