居心地のよい組織=良い組織?
「異質」を武器にしたこれからの人材戦略

日を追うごとにAIが進化するこの世の中で、「将来、自分の仕事がAIに奪われるのではないか」 「人間の価値が無くなってしまうのではないか」といった漠然とした不安を抱えている従業員が増えています。
人的資本経営への関心が高まる今、こうした不安を払拭し、組織を成長させるためにこれから企業に求められるものは、AIの対極にある人間の持つ能力への投資です。
そのためには、これまで「正解」だと信じてきた組織のあり方を疑ってみることから始めなければなりません。
例えば、効率的で不和のない「理想的」に思われる組織。このような組織こそ、このAI時代において警戒すべき脆さを孕んでいるかもしれません。本コラムでは、その構造的な矛盾をひも解き、企業が持続的に成長し続けるためのヒントをご紹介します。
なぜ「居心地のよいチーム」は危ないのか
貴社では、人材の採用や配置を行うにあたってどういった点を重視していますか?
採用基準として重視する項目(3つまで)
今後の採用基準として重視する項目(3つまで)
株式会社アルバイトタイムスが実施した採用担当者へのアンケート調査では、採用基準として「人柄」を重視するという回答が86.6%で最多となりました。
このように、早期離職の防止やチームワークを向上させる要素として、採用や人材配置において「組織やチームへの馴染みやすさ」「人柄」などを優先している企業も多いのではないでしょうか。
こうして集まった、似通った価値観を持つ者で構成された「同質性の高い組織」の強みには、以下のような点が挙げられます。
≪同質性の高い組織の強み≫
・価値観が近いため、合意形成がスムーズで効率的
・組織内での対立が起きにくく、統制が取りやすい
・決定事項への疑問が少なく、実行・展開スピードが早い
このように、「似た者同士」で構成された組織は、組織運営においてのロスを最小限に抑え、成果を出すことのできる効率的な組織と言えます。
しかし、このような「組織の同質化」は、企業の成長を阻む一つのリスクとなり得るかもしれません。
AIの進化・普及が急速に進む昨今、そのビジネス活用は、もはや日常において珍しい光景ではありません。周知のとおり、AIの本質は、蓄積された膨大な既存のデータから素早く最適解を導き出すことにあります。しかし、それはあくまで「これまでの延長線上」にある正解に過ぎません。
過去の成功体験や前例を踏襲し、リスクの低い選択をする同質化した組織は、まさにAIと何ら変わりがないのです。
誰も違和感を口にしない組織で行われる対話には「摩擦」がなく、非連続な成長を生み出すことはありません。このような点から、同質性の高い組織は現状維持には適していますが、将来的にAIに取って代わられるリスクが潜んでいるのです。
AIができないこと=「違和感」の言語化
では、こうしたAIに代替されるリスクを回避するための、人間が持つ武器とは何なのでしょうか。その答えの一つが「クリエイティビティ」です。
「クリエイティビティ」というと、「生まれ持った芸術的才能」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、これは決して選ばれた人だけのものではなく、日常を過ごしていく中で生じる「何かが少し違う」、「なんとなく気になる」といった「違和感」から生まれるものです。
AIは既存のデータから逸脱を見つけることはできますが、そのズレに対して意味を見出すことはできません。一方で人間は、AIなら見落としてしまう「ふと感じた微妙な違和感」に意味を見出し、自発的に新しい価値を生み出すことができます。
すなわち、人間には、既存のパターンを疑い、異なる視点から「本当にこれで良いのか?」という疑問を呈する力があるのです。
こうした些細な違和感から仮説を立て、試行錯誤を繰り返すというプロセスを経てこそ、既存の枠組みを超えたアイデアが創り出されます。
しかし、同質化した組織では、この貴重な「違和感」が組織の中で意味を失い、価値のあるものとして活かされずに埋もれてしまいがちです。
前提を疑うプロセスが省略されてしまい、結果として過去の焼き直ししか生まれません。
一方で、異なる意見や価値観がぶつかり合う「摩擦」を起こすことで、「なぜその考えに至るのか?」「そもそも自分の前提は正しいのか?」といった問いが自然と生まれることにより思考が深まり、クリエイティビティが育まれていきます。
これからの人材育成で重要なことは、その個々が感じた違和感を「ノイズ」として扱うことではありません。
むしろそれを新たな価値を生み出す源泉として捉え、あえて異質な価値観を取り入れる。
そして、健全な摩擦を生み出し、人材のクリエイティビティを育てる種として活用する視点が求められます。
社員の「クリエイティビティ」を育てる戦略的人材配置
従来の「スキルマッチ」や「カルチャーフィット」を重視しすぎた採用や配置には、視野が狭まる危険性が孕んでいます。
それでは、どうすれば組織に健全な「摩擦」を生み出せるのでしょうか。
これは、あえて異質な環境に配置し、既存のスキルを最大限に活かしながら予期せぬ化学反応を狙うアプローチです。
・接客スキルに長けた人材を、UI/UX設計の現場に配置
→ AIやロジックでは弾き出せない顧客目線の「感覚的な違和感」をぶつけ、単なるツールではなく真に人間に寄り添うプロダクトへと昇華させる。
・その業界の知識が全くない異業種からの中途採用者を、業界の常識を知り尽くしたベテランばかりの商品開発に配置
→ 前例踏襲という名の「思考停止」に陥っていた現場に対し、その業界の常識を全く知らないからこそ抱ける「素朴な違和感」をぶつけることで、長年「当たり前」として疑われなかった前提を覆し、全く新しい価値を生み出す。
このように、これまで「当たり前のスキル」として埋もれていた能力も、周囲に摩擦を与え、組織の常識を覆すものへと変わるのです。
前章でも述べたとおり、「過去の延長線」から脱却するためには、あえて「違和感」を組織に取り入れなければなりません。
だからこそ今求められるのは、既存の価値観や風土に染まる人ではなく、現在の組織に欠けている考え方や異質な要素を加えられる人を配置する戦略への転換です。
多様なバックグラウンドや強み、考え方を持つ人材を意図的に混ぜ合わせることによって、衝突が発生することもあるでしょう。
しかし、それは避けるべき感情的な対立ではありません。互いの違いをぶつけ合い、より高い成果を出すために必要なプロセスです。
この「建設的な摩擦」をあえて設計することこそが、これからの組織に必要なことなのです。
効率だけを求めていては得られない、対話を通じて新しい価値を生み出す経験の蓄積が、どんな環境変化にも耐えうる強固な基盤となるのです。
「効率」を捨て、試行錯誤を「評価」する
知識を教え込み、いかに早く一人前にするかという「効率」がこれまでの人材育成では重視されてきました。
しかし、大量のデータから最短ルートで答えを出すことは、今後すべてAIが担うことになるでしょう。
そのため、これから人間が担っていくべき領域は「目的を持った試行錯誤を繰り返すこと」にあります。
失敗や悩みの中にこそAIにはない発見や成長があることを踏まえると、これからの人材育成は「教える」から「試行錯誤させる」へと変えなければならないのです。
すぐに答えを教えるのではなく、心理的安全性を担保した環境で、問いを与えて考え抜く時間を意図的に作ること。
また、そこでの失敗を単なるミスではなく、AIにはない新しい価値を生み出すための「経験値」として評価すること。
組織に必要な摩擦を生み出す人材の配置のみならず、その違いを活かすための環境作りと、行動変容を評価する指標が必要です。
従来の評価のあり方をアップデートし、単に効率や前例を踏襲した成果だけで測らず、「柔軟な思考で周囲にいかに新しい視点をもたらしたか」、「どれだけ既存の前提を問い直したか」などといった視点が不可欠です。
この「人間特有の非効率」に価値を見出すことができてこそ、AIに代替されず、長期的な成長を支える人材を手に入れることができるのです。
持続性のある組織を作るための第一歩は、快適な領域に留まることを捨て、多様な個性がぶつかり合うことを許容することから始まるのではないでしょうか。